常識が異なる世界は身近にある。
弁護士と医師の世界は違う
弁護士や医師は、最近では、TVでもよく見るようになりましたし、特に弁護士は、身近な存在となりつつあるようですが、その2つの世界は、異なる常識で動いております。そして、時に、その世界の違いに気が付かずに、事件が生じることも少なくありません。
法律と診断基準・添付文書との違い
弁護士をはじめ、法律家は、条文などの文言、趣旨を大事にします。それは、その条文に当たるか当たらないかという視点から、条文等の文言を読む癖がついているからです。
これは、法律や条例等は、立法機関・議会が審議・討論を通じて要件・効果を定め、これを前提として司法機関が動いているからと言えます。
他方、診断基準や、薬の処方箋についている添付文書はどうでしょうか。
診断基準は、もっぱら学会等が、一般の臨床医が診断することが区々にならないように、基準を示すものです。また、添付文書というものは、製薬会社が自らの会社がその使用方法により薬を服用・投与された患者さんに健康上の被害が生じた際に、責任追及されないために作成するものです。いわゆるガイドラインも同様です。
まとめると、法律や条例などの法規は、それ自体が要件を定め、法律効果を発生させる性質がありますが、ガイドラインや診断基準は現場の便宜のため、添付文書は、上記の法律の要件に該当し、自らに不利な効果が発生しないように作成されたものにすぎず、要件の設定や効果の発生について規定している性質のものではないということです。
※つまり、当たり前の話ですが、ガイドラインや診断基準、添付文書には、要件・効果が設定されているわけでもありませんし、医師の行動指針を法律的に決定するものでもないということです。
ここで、1つ例を挙げます。ある患者さんに対して、点滴をするとします。その時に、その患者さんにはその点滴は添付文書を読む場合には禁忌と書いてある場合、これを使って事故が生じた場合、医師は責任を問われるでしょうか。
答えはNOです。
正確にいえば、その危険性を承知の上で、その患者さんにとってその薬は有用であることを説明し、それに根拠があり、患者さんがきちんと同意をしていれば、責任を問われることはありません。
製薬会社のいう禁忌は、かなり余白を広く採っています。それは、危ない医師や勉強していない医師が使用することまで想定しないと、訴えられて負けてしまうからです。たばこ業者が米国でたばこを吸い過ぎると肺がんになる可能性が高まります、という警告文を書いていなくて訴えられて負けてしまったことを知っている人は少なくないと思います。これと同じことです。
つまり、禁忌と書いてあっても、適切な使用をする場合には、患者さんに健康上の被害は生じないし、むしろ、有用であることがあることは当然の前提なのです。
※結局、治療目的をもって、医師が、医学的・法律的に相当な方法で行ったことであれば、たとえ添付文書に禁忌と書いてあったとしても、医師の責任が問われることはない、と断言できます。
ここでの問題は、医師ではなく、むしろ、弁護士の方にあるのが実情です。医療についてよく知らない弁護士はどうでしょうか。患者さん側に依頼されて、よくわからずに、添付文書の禁忌を発見したら、宝が見つかったかの如くほくそ笑むことでしょう。禁忌=使ってはいけない、と刑法のように考えてしまうからです。
しかし、この患者さん側の弁護士が、医療機関側の医療が良く分かっている弁護士に当たると、返り討ちになることは言うまでもありません。ただし、医療機関側が医療のことが良く分かっていない弁護士に当たったときは悲惨ですが…
実際、双方医学、医療のことがわからず、両方の弁護士がガイドラインや添付文書を前提として議論を進めて何年も経過している医療訴訟も少なくありませんし、前提知識の誤りに気が付かないで長引いている医療訴訟は、非常に多いのです。
以上のように、医師と弁護士は同じ日本語・同じ事実を見ていても、別物として認識して、それを前提として誤った訴訟・誤った処分、誤った議論をしてしまっていることは少なくありません。
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