病院賠償責任保険について
1 はじめに
医療関係者向けの保険として有名なものに,公益社団法人日本医師会の会員を対象とする日本医師会医師賠償責任保険(いわゆる日医保険)があります。日医保険は,医療行為によって生じた身体の障害につき損害賠償を請求され,その請求額が100万円を超える場合を対象としております。
しかし,日医保険は日本医師会A会員を被保険者としているため,そもそも病院や診療所の開設者が法人の場合,当該法人の損害賠償責任は対象外となります。
また,日医保険には医療施設賠償責任保険が含まれていないため,例えば,病院で発生した火災によって入院患者が焼死した場合や,病院内に設置された医療器具が倒れて患者が怪我をした場合など,施設又は設備の所有,使用,又は管理に起因する損害賠償責任も対象外となります。
そこで,これらに対応する保険として,いわゆる病院賠償責任保険があります。病院賠償責任保険は,医療業務賠償責任保険(医師賠償責任保険)と医療施設賠償責任保険が組み合わされているのが一般的です。
2 医療業務賠償責任保険
医療業務賠償責任保険は,病院又は診療所の医師や看護師等の医療行為によって患者の身体に障害が生じた場合に,病院又は診療所の開設者が負担する損賠賠償責任を補償するものです。
病院又は診療所の開設者が法人の場合には,当該法人自体の責任は日医保険でカバーされませんので,日医保険以外の医賠責保険に加入することになります。
3 医療施設賠償責任保険
(1) 概要
医療施設賠償責任保険は,医療施設の建物・設備の構造上の欠陥や管理の不備等の医療業務以外の業務遂行によって他人の身体に障害が生じたり,他人の財物が損壊されたりした場合に,病院又は診療所の開設者が負担する損害賠償責任を補償するものです。
(2) 保険金が支払われる場合
どのような場合に保険金が支払われるのかは加入する保険契約の内容によって異なります(約款に定められています)が,以下の場合に保険金支給の対象となるのが一般的です。
① 病院の建物や施設が原因となった事故
- 病院火災によって入院患者が焼死した
- 病院内に設置された医療器具が倒れて患者や見舞客が負傷した
- 病院の看板が落下して,通行人が負傷した
② 医療行為以外の業務遂行が原因となった事故
- 看護師が医療器具を運んでいる際に患者にぶつかって負傷させた
③ 提供・販売した食事や商品による事故
- 病院内の食堂で食事をした見舞客が食中毒になった
*なお,上記①~③の場合でも,故意または重大な過失があるときには免責されるのが一般的です。
4 オプション
病院賠償責任保険は,オプションで様々な保険(人格権侵害保険,個人情報漏えい保険等)を追加できるようになっております。
人格権侵害保険とは,不当な身柄拘束等によって患者の人格権を侵害したため負担することになった損害賠償責任を補償するものです。
個人情報漏えい保険とは,病院等が保有している個人情報が漏えいしため負担することになった損害賠償責任を補償するものです。
5 支払われる保険金の種類
病院賠償責任保険において支払われる保険金の種類については約款で定められていますが,以下のような保険金が支払われるのが一般的です。
① 法律上の損害賠償金
法律上の損害賠償責任が発生した場合において,被保険者が被害者に対して支払義務を負う損害賠償金
② 訴訟費用・弁護士費用
訴訟になった場合の訴訟費用や,訴訟・示談交渉のための弁護士費用(ただし,保険会社の同意を得て支出したものに限られるのが一般的です。)。
6 最後に
被保険者に重過失がある場合には保険金が支払われないことがありますので,病院賠償責任保険に加入したからといって,安心してはいけません。
重要なのは,医療事故が起こらないような体制を構築し,医療安全の意識を怠らないことです。その意味で,医療事故に備えた保険と医療安全の確保とは車の両輪の関係にあります。医療安全の確保に関してご不明な点がございましたら,当事務所にお気軽にご相談下さい。
なお,保険に関しましては,加入する保険によって内容が異なりますので,詳細については保険会社にご確認下さい。
Comments are closed