よく聞かれる質問なので、ざっくりとしたQにさせていただきました。
まず、答えとしては、Noです。絶対に負けない方法はありません。
しかし【負ける確率を圧倒的に減らす方法】ならあります。というより、医療機関が医療裁判で敗訴するということは、日常の【医療安全体制ができていなかった】ということです。
医療裁判で負けないような医療安全体制を構築し、これを維持し続ける義務が医療機関にはあります。その安全性に問題があったと評価される=負けとなります。
つまり、安全体制をしっかりすればするほど、医療裁判になることも少なくなり、裁判に万が一なっても敗訴する確率は圧倒的に下がっていくということです。
安全運転をしていても、交通事故を起こすことは誰にもあるように、安全な医療体制を整えていても、一定数は不慮の事故は生じえます。その場合には、その後の対応の適切さが求められます。きちんと安全体制を構築していれば、万が一の場合にも、トラブルにならずに終わることになります。これは、医療機関・患者さん双方にとって幸せなことであると考えられます。
多くの患者さんは、お金が欲しくて医療機関を訴えてくるわけではありません。お金が欲しいだけの患者さんは原告代理人に相談に行った段階で、弁護士費用で割りが合わないことを説明されて諦めるのが通常です(例外が少なくないのが昨今の問題ではありますが)。
では、どのような患者さんが医療機関を訴えてくるのか、というと、安全体制に問題があり、身内や自分に起こった不幸な結果が、きちんと気をつけてさえいれば生じなかったのでないか、手術や手技によって不幸な結果が生じた場合にはその危険性を十分な説明を受けていたならばその手術や手技をすることには同意しなかったのに…というものがほとんどであり、真実を知りたいから、という理由が大多数になります。
そもそも、医療機関も患者さんも、ともにその患者さんの治療という共通の目的でスタートしたはずですから、そもそもは、相対立することはないはずです。
しかし、なぜトラブルが生じることになるのか、というと、それは、医療機関の初期対応のまずさが起因していることが多いのが実情です。この【初期対応】も実は医療安全体制の重要なポイントになりますが、手術や手技等、医療を受けている段階のみならず、結果を受けた後まで、医療機関と患者さんの双方が信頼関係でつながっていれば、医療裁判などという不毛な訴訟などなくなっていくのではないかと思います。
そのためには、医療機関側において、【医療安全体制の構築=医療訴訟予防】であるということを認識し、しっかり時間をかけて医療安全に取り組むことが肝要です。
医療安全体制が構築されている医療機関こそが【ブランド病院】という認識こそが大切です。
話を戻しますが、、、、、
当事務所では、医療裁判の相談を受けることは日常です。しかし、例えば、カルテの記載を見たり、関係者に事情聴取をすると、ほとんどの場合が【これなら大丈夫・負けない】となるか、【ああ、これは厳しいな】とどちらかに分類されます。
もちろん、後者の場合でも、いろいろ手だてはあります。相談のタイミングが早ければ早いほど、手段は残されています。
ここでのポイントは【証拠】です。特に医療裁判では、【カルテ】の記載と【画像や検査】等の客観的データで決まります。
【カルテ】をしっかり記載することの意味をきちんと理解していないケースは良くあります。これは、【カルテは裁判になった際には裁判官が読む・見る証拠である】という意識がないことが起因です。
前者の場合は、カルテの記載がしっかりしているということです。しかし、そのような医療機関はそもそも弁護士に相談するところまで行きません。多くは後者の場合です。
そして、裁判の【証拠】は日常的な作成しているものほど【信用性が高く】、他方、後に記載したものであればあるほど【信用性が低い】ということを知っておかなければなりません。
よく弁護士の先生が有名な先生を紹介してください、と言ってきます。もちろん、有名な先生の【意見書】ももちろん大事ですが、勝敗の分かれ目に強く影響するのは、やはり【カルテの記載】が【裁判での証拠】という意識をもって記載できているかということにつきます。
もちろん、【難しいことを書くという意味ではありません】。裁判官と言えども、法律についてはプロですが医療については素人です。そのような裁判官に対して医療のことを日常の出来事のように【わかりやすく伝える】ということがカルテの最も重要な役割です。
私も顧問先の医療機関にはそのようなカルテの記載や看護記録の記載の方法をご指導させていただいております。
また、同意書というのも単に同意書という書面が存在すればよいというわけではありません。【同意書を取るという過程を通じて、患者さん本人やご家族の意思決定を尊重する】という部分まで含まれています。
憲法13条では、自己決定権というものが認められていますが、医療を受けるか否か、その医療の危険性を知ることは患者さんの権利であり、医療機関はそれを伝える義務があります。
上記のように、【説明をしっかりした上で、きちんとカルテを記載すれば、医療機関は負けません】と言えます。
但し、【しっかり】した説明、【きちんと】したカルテの記載という、【しっかり】【きちんと】というのがなかなか難しいのです。
これを実践するためには、日常的に【法律的なものの考え方を医療関係者個々人が学ぶ姿勢でいること】が大事です。
そして、医療機関の顧問弁護士は【何かあったらよんでね、というスタンス】では通用しません。
常に、現場に足を運び、そして、【医療機関に定期的に足を運ぶこと】と、【医療機関において法律的なものの考え方が身近に感じられるようにすること】のために、動かなければならないのです。
これまで見てきたように、医療関係者と弁護士とがしっかり共同して医療安全体制を整えていさえすれば、真実を!!と訴えてくる患者さんも減ってきますし、そもそも訴えたくて医療機関にかかってくる患者さんはそもそもいるはずはありません。
安心・安全な医療体制の構築は、医療機関のトラブル防止やブランド化につながるだけでなく、患者さんに喜ばれる医療機関として地域で認知されることにもつながります。
是非、安心・安全な医療機関が増えていくことを願ってやみません。
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