遠隔診療の今後
テレビ電話など使った「遠隔診療」、報酬増へ 「対面」と同等近くも 厚労省、普及促進へ今春から
http://www.sankei.com/life/news/180111/lif1801110010-n1.html
このような記事が年始に公開されていました。正直遠隔診療の時代が来るのは避けられないでしょう。
現実的な問題の糸口に
現実に、薬のみ処方とか、家族が薬だけ取りに来るとか、その他の手段で薬を処方することは行われているのではないかと思います。
しかし、いつも通りで長期間服用してきた薬等では健康被害生じる可能性は少ないことでしょう。しかし、メンタルのお薬ですとそうはいかないこともあります。その他の薬にも個別的判断が必要なものはあります。ですので、医師の指示による処方と医師法では規定されているのです。
そうだとしても、薬が必要で通院が困難な患者さんについて、すべて往診をするだけの医療資源は残念ながらないというのが実情でしょう。
そうすると、遠隔診療が活躍するしかない、ということになります。
安全性の議論が置き去りに
結局、遠隔診療のメリットが高いのであれば現実に遠隔診療は発展していくことと思います。
しかしながら、遠隔になったからミスや事故が生じても仕方ないよね、と裁判所は考えてくれるでしょうか。
おそらくそういう考えをすることはないと思います。むしろ、逆に遠隔診療を受けた以上、対面診療以上の責任を、裁判所は医療機関に負わせるのではないかとすら思います。
手術について内視鏡が現在発達していますが、実際に、内視鏡だから開胸・開腹の場合より責任は軽いという判断はなされていません。
もちろん、術後の回復が早いというメリットがあってスタートした技術ですが、視野も限られ、実際に直視したり、直接部位に触れることが困難な以上、リスクは高いものという分析は容易にできます。
群馬大学の事件も内視鏡による肝切除に伴うものでしたが、非常に重い責任を負わされるに至ったことは記憶に新しいことでしょう。
遠隔診療の問題点
遠隔診療の最大の問題点は、対面診療に比べて入ってくる情報は限られているということです。そして、限られた情報であっても、対面と同程度のことが求められることでしょう。
そして、対面の時以上に、きちんと記録を残し、注意義務を尽くしておかなければ、重い責任を負うことになるのではないかと思います。
たとえば、明らかに直接来院しなければできない検査が必要と考えた際に、対面であれば、その場でオーダーすることができます。しかし、対面の場合は、患者さんが来なければこれは困難です。
そして、患者さんが来ないからといっただけでは医療機関の責任は回避できません。自己責任ではなく、遠隔診療で診察を始めた以上、それなりの手段で検査の催告手続きが必要になるような事態もあり得ます。
この際、どのような手段を講じたらよいでしょう。
その他、法律と医療という視点から見ると、現実に普及していく過程で、様々な問題が生じてくるのではないかと思います。
遠隔診療の趣旨
そもそも、国が遠隔診療を促進している理由は、医療機関が患者さんの獲得をして利益を上げるためではありません。
あくまで医療に対するアクセスが困難な国民の便宜を図るためです。
遠隔診療をビジネスとしてとらえていると、間違いが生じるのではないでしょうか。この点は早い段階で明確にする必要があります。
まとめ
このように、遠隔診療は発展・普及していくことが望ましいですが、リスクマネジメントも同時にやっていかないと、一つ大きな事故が生じてしまったら、とたんに遠隔診療をすることに手を挙げる先生がいなくなってしまうかもしれません。
いくら診療報酬が上がったとしても、リスクが高く、その管理ができないのであれば、面前での対面診察のみとする方がよいということになります。
医療安全=医療訴訟予防です。医療関係者は法律的なものの考え方を学び、弁護士等の法律家は医療機関の現場の感覚を学ぶ必要があります。これは医療関係者と法律家との対話の促進とも言い換えられます。
これが対面診療でもまだ不完全な状態なのにも関わらず、遠隔診療が発展普及していくのはとても危険です。
やはり原則としては対面診療です。対面診療における医療安全がまだ不十分である医療機関は遠隔診療に手を出すべきではないでしょう。
いわんや、遠隔診療のみのクリニックはなおのこと危険極まりないと考えられます。
遠隔診療をするとするならば、まずはしっかりと安心・安全な医療を提供することの徹底から始めましょう。
Comments are closed