業務妨害罪について
(昭和59年3月23日、最高裁判例)
Xは、以前に離婚交渉を依頼したことがあるA弁護士に対して、一方的に好意を持ち、たびたび交際を求めた。
しかし、弁護士は相手にしなかった。
ある日、XはAの事務所に押しかけて面会を求めた。その上で、「一遍付き合ってください、ゆっくり話を聞いてもらいたい」などと申し入れたが、XはAから拒否された。
そこで、Xは憤慨して、Aを困らせてやろうとAのカバンを奪って持ち帰った。その後、2か月余りの間自宅に隠匿した。なお、そのカバンの中には、裁判で使う記録等が入っていた。
質問
基本
なぜ、業務妨害罪が刑法で「刑罰」として規定されているのでしょうか。
《参考》
刑法233条・虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて、人の信用を毀損し、またはその業務を妨害した者は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処する。
刑法234条・威力を用いて人の業務を妨害した者も前条の例による。
憲法22条1項・何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
これは業務妨害罪に当たりますが、業務妨害罪には2つ種類があります。いずれに当たると思いますか?
《参考》
- 威力…人の意思を制圧するような力を用いること
- 偽計…人を騙したりする手段を用いること
- その2つの区別はどのようにしたらよいでしょうか。また、本件はどちらに該当するか。
- それぞれの具体例を皆さんも考えてみましょう。
《参考》
偽計業務妨害の例
- 障害物を置いておく行為
- 電話の通話の際に、課金できなくなる装置を設置した行為
- 3か月の間に970回の無言電話をかける行為
- デパートの売り場の布団に針を混入させた行為
威力業務妨害の例
- 競馬場に釘を巻く行為
- 机に不快なものを入れておく行為
- 食堂にヘビをばらまく行為
応用
- 医療現場で想定される業務妨害としてどのようなものが考えられますか。
- その業務妨害は、偽計でしょうか。威力でしょうか。
- 偽計と威力はどちらの罪が重いのでしょうか。
- その業務妨害によってどのような被害が想定されますか。
- その業務妨害をどうやって回避しますか。
まとめ
医療の世界において、今一番必要なことは、一般社会生活で生じている事象を医療に《置き換える》ことです。ただし、なかなかに難しいのが現実です。
なぜ難しいのか。
それは、医療現場の感覚が一般社会と大きくずれているからです。もちろん、うまくいっている場合は、それでもよいです。しかし、有事の際には、一般社会の感覚で裁かれます。会社・企業に目を向けると、当然のように「コンプライアンス体制」を敷いています。これは、会社・企業もまた、かつて(出ない会社・企業も少なくないですが…)は一般社会とずれていたが、それを是正していかなければならないからです。
あとは株主の目があるからでしょうか。
対して、医療機関は株主の目線がありません。したがって、「コンプライアンス体制」を敷かないでどうにかなるのであれば、敷かない方を選択するという医療機関は少なくありません。
しかし、こう見てはいかがでしょうか。《コンプライアンス体制=医療安全》はブランドである、と。
また、まだきちんと《コンプライアンス体制》を敷いている医療機関は少ないので、これを徹底することで、他の医療機関と差がつくことになります。
いうまでもなく医療機関の「コンプライアンス」として最たるものは「安全な医療の実現」です。是非、きちんとしたコンプライアンス体制を敷いていきましょう。
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