収入と支出の意味付けできてますか?
(1)出したくない1000円と、出したくなる1万円
医療関係者は、医療機関内部にいて初めて医療関係者です。
つまり、「医療を提供」して「報酬」を得る立場です。
患者さんは、「報酬」を医療機関に支払って「医療を受ける」という立場にいます。
この時、一般社会との大きな違いとして、医療機関の行うサービスは自由診療を除けば、国によって値段が決められてしまっているということです。
自由診療であっても、相場は明確です。行政からは価格を明確にするように指導をされますので、実際には、相場通りということになります。
これには大きな大前提があります。それは、「医療」は「どこででも同じサービスが受けられる」というものです。
しかし、本当にそうでしょうか。
同じサービスなんてないと思いませんか?
患者さんの性格にもよりますが、ある幅の中で、満足度が高ければレピーターに、満足度が下限を下回ると、人によってはクレーマーになり、場合によっては静かに来なくなることでしょう。
1000円でも満足度が低ければ払いたくないですが、10000円でも満足できれば支払ってもよいというのはこのことです。
この時、医療関係者は自分がサービスを受ける側に立って考えてみることが肝要です。自分やその大切な家族が受けたいと思うサービスを提供しておけば間違いがありません。
(2)同じ10000円でも意味付けできるか否かで全く違う効果に…
たとえば、車でいえば、例えば、車の性能自体はほぼ同じ、デザインも甲乙つけがたい場合、
- 値下げは一切しない(ワンプライス)けど、修理対応やディーラーのサービスが抜群に良い(土日祝日夜間でも担当者に連絡がつきやすく、嫌な顔しない)、修理も基本的には無料対応のメーカーで買う車
- 担当者の裁量で値下げには応じてくれたけど、土日祝日夜間は担当者に連絡が付かず、平日でも折り返しが遅い。修理も有償対応で、いざという時不安にさせるようなメーカーで買う車
もちろん、現在②のような車のディーラーはないでしょう。どこのメーカーもアフターサービスは充実しています。しかし、たとえば①も②も500万円、でも②は80万円ひいてくれて420万円。
実際に数字を見ると、②もいいかなという方もいるでしょう。
実際消費者の立場であれば、どちらでもよいと思います。よほど変な車でなければ、問題になることもないと思います。
しかし、経営者としては、②を選ぶようではいけません。迷わず①を選べない経営者は大成しないのではないかと思います。
(3)医療事故の際の弁護士対応
それほど難しい話をするつもりはありません。リラックスしてみてもらえたらよいと思いますが、
- 医療事故やミスの際に(患者が弁護士を付けて内容証明を送付してきた場合も含む)、現場に行き、直接現場を見て、担当者の話を聞く (当然現場の方の質問や不安にも答える) 弁護士
- 医療事故やミスの際に(患者が弁護士を付けて内容証明を送付してきた場合も含む)、現場に行かず、医療機関の担当者にケースレポートを書くように指示し、法律事務所から出て現場に行こうとしない弁護士
正直、直接現場に行く必要のないような明らかなクレーム事件もあるのも事実です。その場合は、しばらくは直接現場に行かない対応もあるでしょう。
でも、事件が複雑で医療機関に落ち度がありそうな場合、どうやって現場の医療関係者を弁護士さんは守るの?
当然求めるのは①の弁護士です。しかし、いなかったのです(私が研修医の当時ですので)。いろいろな医療に詳しい弁護士さんに会いに行きましたが、現場に行き、現場の担当者からきちんとヒアリングをするというスタンスで事故対応している弁護士さんが…
(4)弊所のスタンス
正直、医療機関で直接質問されてその場で一定の回答ができて医療関係者と医療についてコミュニュケーションが図れる弁護士は圧倒的に少ないというのが現状だと思います。
医療関係者は、それでも良いという風潮から脱する必要があります。有事になる前に弁護士とコミュニュケーションを取り、弁護士は個々の医療現場のことを具体的に人や導線を頭に想像しながら話を聞く。そして、トラブルの種を未然に防ぐ、これこそ医療安全の核心部分です。
弁護士の側も平時から医療関係者とコミュニュケーションを取り、有事の際には現場にまずは伺って、現場を見て、現場の医療関係者の生の声を聴く必要があります。そのためには、弁護士が医療のことを「知らない」という現実を直視し、「謙虚に学ぶ」しかないと思っています。
これは、医師免許がある弁護士だからいかなくてもよいということにはなりません。医師免許があれば、基礎医学や医療の実践についての前提知識や経験があり、コミュニュケーションがスムーズに測れるという点において強みがあるのであり、現場に行かず、現場の医療関係者の声を聴かないのであれば、強みを生かすことはできません。
弊所のスタンスとしては、どの弁護士も事案を見定め、いざという時にきちんと現場に急行し、かつ、生の不安な声にこたえるというものです。
(5)実は早期解決に…
上記のスタンスだといい事があります。現場を見て、現場の声を聴いているために、事件の解決の糸口が見えてくるのです。また、患者さんに対しても、説明がより具体的にすることができます。
医療機関に訴えてくる患者さんも、一部の例外を除いては、医療機関を訴えたいわけではありません。
- なぜ自分ないし自分の身内がこんな目に遭ってしまったのか
- 同じような不幸が起こらないよう、医療機関にはきちんと再発予防をしてほしい
このような方がほとんどだと思います。
特に、有事の際には②の点、すなわち、再発予防策をきちんと立ててから患者さんに説明する必要があります。他方において、この点をきちんと押さえることによって、患者さんは納得し、適切な賠償額で和解してくれることにつながるということが経験的にも非常に多いです。
(6)まとめ
まとめると、
- 平時から弁護士と医療関係者はコミュニケーションをとる(リスクマネジメント)
- 有事の際はすぐに弁護士と状況を共有する
- 医療機関側に落ち度が高そう、もしくは複雑な事案であれば、すぐに弁護士にアポイントを取って訪問してもらう(当然フィーがかかります(保険でおりる場合もあります))
- 現場の状況の確認+現場の医療関係者の生の声を聴く
- 再発予防策+方針を決める。
となります。
とすると、①のリスクマネジメントを取ることは、いざという時の③のフィーがかからないし、また、②の事態になることが少なくなり、結果的に得をします。他方、①をおろそかにすると、②の事態になることが多くなり、結果的に損をしますし、不安にもなりますし、嫌な雰囲気の医療機関になってしまいます。
しかも、①が1000円、③が10000円に該当することになるのではないかと思います。リスクが現実になった上に、さらに高額な費用が掛かるのが実際です。
つまり、出したくない10000円、出したくなる1000円ということになってしまいます。
さて、医療機関経営者としては、どちらがよいですか。
以上
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