適正手続とタイムラグ
弁護士をしていると、適性手続とタイムラグというのは常に意識することになります。
これは、請求する側は、《請求して》《認めてもらって》《支払いを受ける》という3つの動作をしないと、権利を持っていても、それが実現できないということといえばわかりやすいでしょうか。
また、請求する場合には、弁護士や裁判所に納付する費用も掛かります。
たとえば、1億円を貸したのに返してもらえなければ弁護士に依頼して裁判で勝って回収する人はいっぱいいると思いますが、1万円だったらそもそもそのための費用を考えたら、躊躇するのではないでしょうか。
この適正手続という発想は、権利を実現するという際に、タイムラグをもたらします。
そして実はこの発想は、裁判にとどまらず《未収金》などという形で医療機関も重要な関わりを持つのです。
このあたり、深く掘り下げてみましょう。
なぜ適正手続なのか
そもそもこの発想は、刑事手続きを想定すれば明らかです。歴史を振り返れば、冤罪で処分・処罰された方は尋常ではない数になることでしょう。
そのために、日本国憲法は31条で適切手続を規定して保障し、どんなに極悪人で重い罪を犯した人間であっても、法律の専門家である弁護人を付けて、裁判で言いたいことを言って、裁判官に良心に従って判断してもらってから処罰を受けるということになっています。
つまり、冤罪の防止という趣旨が多分に含まれているのだと思います。
これは、金銭のやり取りについての民事事件についても同様で、もしかしたら勘違いがあるかもしれないという発想が当然出てきます。
もちろん、民事訴訟には、《自力救済》と言って、直接取り立てに行き、二次被害を防ぐ趣旨等も含まれています。これは、社会秩序維持という意味もありますね。
請求する側から見てみましょう
医療機関からすると、《未収金》の問題が多いでしょう。保険診療であれば、3割程度の未収金で、7割程度は保険によってカバーされています。
したがって、その3割の未収金で済みます(これも積もり積もれば大きい金額になります)が、今後、《自費診療》をする場合は切実な問題となることでしょう。
しかし、いくら《請求する権利》があろうとも、裁判手続(簡易なものから本裁判までいろいろありますが)を経なければこれを回収することはできません。
従いまして、預り金をしておくとか、クレジットカードのインシュランス的な使い方、はたまた、その他の代金回収のための仕組みが必要になります。
これを導入し運用するためには、当然医療現場の感覚+法律知識が必要となります。誤ったやり方をすればかえって逆効果だからです。
また、そんな需要が高まれば、必ず業者が動きます。もちろん、優良な業者もいっぱいあると思いますが、特に《集客系》のIT関連企業等の被害の相談を多々受けている私の立場からすれば、契約書の吟味やリスク分析は必ず必要となります。当然前提たる法律知識が必要となります。
このように、医療機関経営にとって生命線となる診療報酬の《回収》の問題、自費診療が増えつつある昨今、無視してはいけないところだと思います。
請求される側から見てみましょう
これは、医療事故等の場合や単なるクレーマーの場合、対外的業者に対する場合等が想定されます。
まず、業者に対しては、それが継続的に必要なものであれば、支払いを辞めれば物品等の供給を止められてしまいます。したがって、支払うモチベーションが医療機関側もありますし、よほどの事がない限りは、支払いをしないということはないと思います。
他方、患者さんのクレームについては、たとえ事故が明らかであっても、不当な要求されてこたえてしまうわけにもいかず、そもそも、最終的な賠償責任者は保険会社になりますから、安請け合いをしてしまうと免責約款に触れてしまいます(つまり自腹の可能性が出てきてしまいます)。
問題となるのは、自力救済をしてこようとするクレーマーです。
たとえ、医療事故が明確であっても、自力救済は許されません。医療事故が明確であっても、自力救済をするのではなく、きちんとした手順を踏まなければ、たとえ、医療事故による医療機関に過失が認められるようなものであっても、患者さんに支払いをすることはあり得ないのです。
すなわち、患者さんがいくら賠償しろと言っても、直接交渉に乗ることや、安請け合いをすることは絶対にやめてください、ということにつながります。
また、万が一微々たる額だから保険会社入れなくともよいなと思っても、しっかり合意書を交わすべきでしょう。そのために弁護士への相談は絶対条件です。
このあたりは特に重要なところなので、さらに掘り下げて従業員教育をした方がよいのではないかと思います。
請求される側から請求する側の方のことを考えてみましょう
とはいえ、医療事故が生じたのであれば、保険会社によって適切な賠償を速やかにする必要性は否めません。
そもそも信頼関係からスタートした医療機関と患者さんとの関係、できることならは切りたくはないというのが医療関係者の本音ではないでしょうか。
そこで、医療事故が生じた、もしくは、そのようなクレームを受けた場合には、まず弁護士に相談してください。そして、保険会社に対して、《裁判の見通し》を告げます。
そうす��と、保険会社も裁判費用をかけて最終的に支払う金額がある程度わかれば、むしろ裁判をしない方が弁護士費用も少なく済むし、和解により医療機関と患者さんとの信頼関係を害さずに満足度の高いサービス提供をすることができます。
このために活躍するのがまさに《医療機関の弁護士》の真骨頂です。見通しがつけられないでただ何年も裁判を続けるような事態はあり得ません。
適切手続とタイムラグの発想はこのように使っていきます。
まとめ
結局、医療安全が最も、大切であり、そのためには、医療関係者は法律的なものの考え方をしっかり学ぶ必要があります。これがないと、残念ながら安心・安全な医療も安心・安全な医療機関経営もできないというとです。
以上
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