医療機関建築について・一般法と特別法
最近,立て続けに,クリニック新築後に建物の不具合が見つかり,診療にも影響しているため何とかしてほしいとのご相談を受けました。クリニックや接骨院を開業する場合,いろいろ気を付けるべき点はありますが,建物自体の問題は,なかなか未然に防ぐことができません。そこで,建物に不具合を発見した後には,どのようなことができるのかを考えてみましょう。また,それを通して,「一般法と特別法」,「原則と例外」という法律の基本的な考え方もご紹介しようと思います。
1 何を請求できるか
クリニックを新築して開業する場合,一般的には,誰かに,設計と施工を依頼しなければなりません。その際,設計と施工を一つの会社にワンストップで依頼する場合と,設計と施工を別の業者に依頼する場合があると思います。
設計と施工は,民法上は,「請負契約」というものに該当します。簡単に言えば,何か作ってほしいとの依頼をして,依頼された側がそれを完成させるという内容の契約です。設計は,設計図作成や構造計算を依頼し,設計士がこれを完成させます。施工は,工事を依頼し,施工業者がこれを完成させます。
ここで,依頼された側は,自らが完成させたものについて,いくつかの責任を負うことになります。最も重要なのが,今回問題となる「瑕疵担保責任」です。引き渡しを受けた物件に何らかの不具合が発見された場合には,基本的に,この瑕疵担保責任に基づく請求をしていきます。要するに,依頼した相手に対して,不具合の無償修理や修理代金相当額を求めるということです。
民法634条
- 仕事の目的物に瑕疵があるときは、注文者は、請負人に対し、相当の期間を定めて、その瑕疵の修補を請求することができる。ただし、瑕疵が重要でない場合において、その修補に過分の費用を要するときは、この限りでない。
- 注文者は、瑕疵の修補に代えて、又はその修補とともに、損害賠償の請求をすることができる。(以下略)
2 誰に請求すべきか
冒頭の相談に戻りますが,クリニックを新築したら微振動が生じていた場合,瑕疵担保責任を誰に請求すべきかが問題となります。設計と施工を同じ業者に依頼した場合には,その業者に請求することになります。一方,設計と施工を別の業者に依頼した場合には,どちらに責任があるかを考える必要があり,それはつまり,微振動の原因が何かを特定しなければならないということです。
実は,これはかなり難しいことで,一級建築士などの専門家と提携しながら,原因を特定し,設計士が悪いのか,施工業者が悪いのかを特定することになります。もっといえば,建築の過程では,監理者という設計内容に基づいた施工がきちんと行われているかをチェックする立場の人がいて,この人の責任も検討する必要があります。
3 いつまでに請求すべきか
さて,不具合の原因を特定し,いざ瑕疵担保責任の追及というところですが,注意しなければならないのは,責任追及に期間制限が設けられている点です。期間制限は,法律で定めている場合もあれば,契約書で定められている場合もあります。これは,基本的なルール(民法など)を定めて,業界の実情に応じてそれをより厳しくしたり(商法,宅建業法など),個別の契約において柔軟な特約を定めさせたりするという法律の基本的な考え方に基づいています。これを,「一般法と特別法(特約)」の関係といいます。
ではまず,基本的なルールを定めている民法の内容を確認しましょう。
民法638条1項
建物その他の土地の工作物の請負人は、その工作物又は地盤の瑕疵について、引渡しの後5年間その担保の責任を負う。ただし、この期間は、石造、土造、れんが造、コンクリート造、金属造その他これらに類する構造の工作物については、10年とする。
ちなみに,この規定には,「一般法と特別法」に似た「原則と例外」という法律の考え方が出てきています。基本ルールを定めて,それを徹底すると不都合が生じる場合に,一部例外を設けるという考え方です。
ここでは,土地の工作物については,原則として,引き渡しから5年間の期間制限を設けるが,しっかりとした構造の工作物については,例外的に,10年間は責任追及できることにしています。これは,構造がしっかりとした工作物であればあるほど,不具合を発見しにくい,判明するのに時間がかかることを考慮した規定となっているのです。
そうすると,不具合を見つけても10年は大丈夫だから,ゆっくり考えながら責任を追及していけばよいとの考えになってしまいがちですが,これは誤りです。これはあくまで,民法という基本ルールの規定です。多くの場合,工事請負契約書において,この期間が2年に制限されているのが実情です。
民法はあくまで基本ルールですから,せっかくの10年という期間も,個別の契約で自由にいじれてしまうのです(特別法により,消費者保護の要請などから,民法の規定より消費者に不利な特約は無効とされる場合もありますが,建物の請負契約では,特にそのような制限がありません。)。
したがって,不具合を発見した場合は,直ちに専門家に相談し,原因調査を含め,責任追及の方針を検討した方がよいでしょう。
4 さいごに
クリニックや接骨院の開業では,実は,非常に多くの「契約」が結ばれます。それらはすべて民法や契約書の条文で内容が事細かに設定されているため,意識しなければ,自分に不利な内容を見落としたり,責任追及の機会を失ったりしてしまいます。今回は,戸建て開業時のトラブルを例に,瑕疵担保責任や法律の基本的な考え方について触れましたが,テナント開業の場合にもトラブルはつきものです。開業に際して大きな契約を結ぶ場合には,是非,弊所,または,お近くの弁護士に相談されることをお勧めします。
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