医療安全体制の構築に必要なもの
これまでの弁護士は、「法律のことは任せといて」というスタンスが多かったと思います。実際私も医師としていろいろな弁護士さんとお話しをしたことがありましたが、このようなスタンスでした。
しかし、実際に医師としての自分が感じたことは「この弁護士さん、医療のことわかってるのかな」というものでした。中には医療について詳しい方もいらっしゃるのでしょうが、自分が医師として何かが万が一あった場合には、法律的なものの考え方を教えてくれる弁護士さんに依頼したいなと思いました。
なぜなら、何かが起こった際に、法律的なものの考え方がわからないまま、弁護士さんの裁量で進められるというのは非常に怖いと思ったからです。
そこで、私は自分で法律について勉強を始めました。自分のことは自分で学ばなければならないなと思ったからです。そして、現在に至ります。
実際自分が弁護士になって、医療の世界を概観すると、医療について弁護士が理解することは(現場を見ていないから仕方ないですが)、難しいことなんだなと思いました。もちろん、医療訴訟、つまり裁判となればそれがわからなくとも形式的には問題なく進んでいくことでょう。実際には医療訴訟のほとんどが和解で終了する傾向にあります。
とすれば、とりあえず医療のことがわからなくとも、だいたいいくらくらいが妥当なのかという点だけわかっていれば大丈夫ということになるからではないかと思います。
しかしながら、裁判で判決まで行ってしまった場合には、他の医療機関にも影響を与えるような事態も少なくありませんし、おかしな判決(弁論主義なので仕方ないですが)だなと医療関係者が感じるような判決が出ることも多く、これは、患者さん側と医療機関側の弁護士双方が医療についてよく理解していない場合に起こりうることです。
これらの私の体験や医療を取り巻く法曹界の事情を踏まえて、私は、医療関係者は法律的なものの考え方を学ぶべきであると考えております。他方、法律関係者については、医療現場に足を運び、現場のものの考え方を学ぶべきであると考えておりますし、これが実現することが医療安全体制の真の構築と考えております。
つまり、医療安全は医療関係者だけでは完結しません。また、医療現場に足を運ばない弁護士は医療訴訟や医療法務を扱うことはできないということです。
裏から言えば、(1)医療関係者は法律的なものの考え方を学ぶ、(2)弁護士は医療現場に足を運び現場のものの考え方を学ぶことが大事だということです。
但し、医療関係者が弁護士ほど法律を理解する必要はありません。医療関係者及び弁護士双方が相互に医療に関する法律的なことにつき、コミュニケーションが取れるレベルにあれば十分です。
このような観点から弁護士法人AIT医療総合法律事務所では、定期的に弁護士が直接顧問先にお伺いし、各種スタッフともコミュニュケーションを取ります。これによって弁護士へのアクセスが容易になりますし、心理的な抵抗もなくなり、弁護士にいろいろ聞きやすくなります。また、弁護士もその医療機関がどのように動いているのかを知ることができ、これによっていざというときに現場を想像しながら具体的かつ適切なアドバイスが可能となります。
現場の医療関係者には法律的なものの考え方を学んでもらっております。現在、弁護士がお伺いしての院内セミナーもしくは弊所まで来所してもらったうえでの塾型セミナー、公開のセミナーなどを準備しております。どの講習をどの程度取るかは各種医療機関によって異なりますし、アレンジも自由ですが、これらの「学びの機会」によって医療関係者に法律的なものの考え方を理解してもらい、真の医療安全体制構築及びその維持・向上、ひいては医療機関のブランド化をサポートしております。
医療安全体制構築の3STEP
弊所では、医療安全体制の構築について、「医療関係者の法律的なものの考え方の理解」が必須のものと考え、大きく3STEPに分けたご指導をさせていただいております。
医療関係者が法律的な弁護士の話を聞いてすぐにすべて理解できるとは思いません。むしろ、一気に話を聞くと理解することができずに消化不良になることが少なくないと思っております。これは、以下にご説明する3STEPを経ていないからであると考えます。
STEP1 「知る」段階
まず、STEP1は「知る」段階です。知ることはTVのニュースや情報番組を見たり、週刊誌などを読んだりすることがわかりやすいですが、知らないことを知ることができるという点で、非常に「楽しい」作業になります。
ただし、理解していないので、その楽しさはいつまでも続かず「忘れる」ということにつながってきます。
しかし、これでもよいのです。次に聞いてあっそういえばこないだ聞いた話だということくらいできていれば、最初はそれでよいのです。
弊所では、新規で顧問となった医療機関に4つのテーマを講習させていただいております。
- 転倒・転落や身体拘束など、どこの医療機関でも起こりうる訴訟の事前対策について
- 意味のある同意書・意味のない同意書など、どこの医療機関でも必要な書類の作成・管理の方法について
- カルテの記載の意味・正しいカルテの記載の仕方、対患者さん・対個別指導を見据えたカルテの記載の方法について
- 医師法や歯科医師法、柔整師法、看護師法、鍼灸師法などの資格に基づく講習及び医療機関において知っておくべき「証拠」について
以上について最初の4回で説明させていただいております。これは、どこの医療機関でも共通で早急に対策が必要な分野であることから、すべての医療機関で基本的に行わさせていただいております。
STEP2 「理解する」段階
次に、STEP2「理解する」段階です。これは、正直苦しい作業です。わかりやすい到達点としては、択一式の問題を出せば正答にたどり着けるが、論文式の問題だとうまく書けないという程度のレベルです。また、だれかにきちんと的を得た質問ができるレベルのことを言います。
「理解する」過程で、弁護士との双方向の医療安全体制構築がいよいよ実践的になってくることでしょう。これまで「何かあったら弁護士さんお願いね」、「わかりました」、というだけの構図が、「弁護士さん、これ心配なんだけどどうしておけばよいですか」と具体的な質問ができ、弁護士も当該医療機関の実情に即した適切なアドバイスをし、訴訟を未然に防ぐことができます。
ここまで各医療関係者が達することができれば一応の到達といえるしょう。ただ、これはなかなかに難しいことと考えますので、継続的に法律的なものの考え方を学び、それを続けることが必要です。
なお、上記の1.~4.の院内セミナーが終了したら定期的に医療安全委員会などの各種委員会の参加や、具体的トラブル事例を一緒に考える講習になります。
具体的な事例は豊富に準備しておりますので、各種医療機関にあった実例をもとに一緒に学んでいくことになります。
STEP3 「身につける」段階
最後にSTEP3「身につける」段階です。これは、理解する作業を繰り返し行い、他人に説得的に説明できるレベルです。また、弁護士が何を考えて、どうしてこのようなアドバイスをするのかが一応推測することができるレベルとも言えます。正直ここまでできなくともよいと考えられますが、このようなレベルまで達することができるスタッフがいれば、弁護士の出番は根本的に少なくなることでしょう。
これによって常に医療安全体制が構築され、継続性が担保されることになります。
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