Q 医師は診療を求められた場合,必ず応じなければならないでしょうか?
A 必ずではありませんが,原則としてすべて応じなければなりません。問題は例外的な場合はどのような場合かと、その判断基準です。特に,医師がいない高齢者を預かる施設で問題となります。
【解説】
- 医師法第19条第1項は,医師は,原則として,診療行為を求める患者さんを拒否することができないが,例外的に「正当な事由」がある場合は拒否することができるという定め方をしています。
- しかし,現場においては,医療機関の規模や医療機器の充実度,患者受け入れのキャパ不足など等を理由として断る場合があります。これについては,当該医療機関で受け入れることが,その患者さんにとって不利益になる場合であれば,「正当な理由」として拒否することができると考えられているのだと思います。
- ほとんどの場合,断って問題が生じることはないのが現状ですが,たとえば,命の危険が迫っている救急患者の場合になると,状況は異なります。
すなわち,病院が断ったから○○は亡くなった(若しくは重症な後遺症が残った)ということになれば,話は変わります。医師法上,医師には患者さんを断れないという法的義務が課されている以上,「正当な事由」なく拒否すれば裁判で責任追及されることもあります。 - よって,診療を拒否する場合に重要なのは,拒否することが正当だといえる事由があるか否か,そして,それが後から証明できるだけのカルテ等の記載がなされているかという点です。
日ごろからしっかりカルテの記載について法律的なチェックを受け,いざというときに争い事に巻き込まれないような医療体制が求められます。 - では,応召義務はない老人ホームや介護施設等の場合は,気にする必要はないのかという問題が提起されます。答えは,応召義務違反がない医療施設でも,転医義務違反にはなり得,違反すると民事責任等を負うことになります。
そして,高齢化社会で高齢者を預かるすべての施設でこのような問題が顕在化しています。例えば,施設で急変した際の対応等が問題となります。
応召義務の有無にかかわらず,老人保健法等には,手に負えない場合には,適切な医療機関へ送付する義務が明記されています。
その他,明文の規定がなくとも,健康不安を抱える患者さんを預かり施設等は今後転医義務の問題に直面することでしょう。
転医義務は応召義務を負っているか否かに関わらず,人を預かっている以上,医療ができない人にも課される義務です。今後,介護保険の丸目等の影響でなかなか医師が常駐する介護老人保健施設等は重要に追いつかないことにより,サービス高齢者住宅や有料老人ホームが多く作られることと思います。
そうすると,医師が常駐しない介護施設等があるわけですから,現場が医師に送るタイミングを間違えると非常に大変なことになるでしょう。
医療安全はこのようなところまで幅広く広がってくることが予想されています。
以上
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