いざ医療事故が生じたら…
法律では、債務不履行(民法415条)や不法行為(民法709条)という条文で規定されています。しかし、「過失」や「因果関係」については、法律で明確に定まっているわけではなく、医療機関での出来事を後から法律的に評価することによって認定されます。
すなわち、その評価の根拠となる事実や、それを根拠づける書面が大切になるということです。
最終的に医療機関に過失や因果関係が認められるということは、すなわち、裁判をしたら医療機関が負けるということです。もちろん、裁判の過程で明らかになる事実もあることでしょう。しかし、裁判にまでもつれ込んで負けるのは最悪だと思います。そこで、弁護士が医療機関の現場の話を聞いて、過失や因果関係の分析を速やかに行うことが大切になるのです。
評価の根拠とは
先に述べたように評価の根拠となる事実は、言うまでもなく《平時の医療安全体制》にほかなりません。医療事故やミスが起こるべくして起きた場合には、ほぼ間違いなく医療機関は負けると考えた方がよいでしょう。
よく、これくらいは皆がやっているから大丈夫、とか、前勤めていたところではこれで大丈夫だったから、という言い訳は通用しません。このあたりは客観的な目線が大切になります。
また、評価に用いられる《証拠》とは、カルテや看護記録、同意書等が代表的なものではないでしょうか。これは保険請求の際にも重要になります。
カルテや看護記録や同意書、その他の各種書面はいざという時に裁判官が見て判断するという視点が大切です。
弁護士がすぐに動けない場合
事故やミスが生じたとしても、《過失》や《因果関係》の判断や分析もなく、患者さんからの訴えをすぐに突っぱねるということは、医療機関と患者さんとの信頼関係を侵害することになります。
これは医療機関側の弁護士としては、絶対にしてはならないことです。
まずは、医療機関は患者さんと対話をすべきでしょう。説明が必要であれば、できる限り説明をすべきですし、その点を無視して突っぱねるアドバイスをする弁護士はよろしくないと考えております。
この点で弁護士はすぐに動くことが適切でない場合があると考えております。ただし、注意が必要なのは、有事の際に、弁護士に速やかに連絡し、「過失」や「因果関係」の判断をして、それを前提とした対応をすること自体は非常に大切だということです。
つまり、現場の医療関係者と依頼を受けた弁護士との間で、事故状況等をしっかりと共有し、どのような対応が適切かの判断をまずは検討すべきでしょう。
クレームとの違い
そうはいっても、クレーマー対策は医療機関にとって難題です。しかし、クレーマーはそもそもこちらの話を聞かないのですから、そもそも対話になりません。
むしろ、クレーマーの場合において信頼関係を先に打ち切っているのは、患者側ということになります。この場合には、強く出ることもやむ得ないことといえるでしょう。
少なくとも言えることは、医療機関の側から患者さんとの信頼関係を切るようなことは控えた方がよいということです。
医療安全が大切なわけ
以上のような事故やミスの対処は、普段から医療安全体制に意識を向けていれば、そもそも減らすことが可能なはずです。これが医療安全の発想です。安心・安全な医療を普段から心がけていれば、《いざということ》自体が減ります。
また、医療安全を徹底することは《おもてなし》にもつながります。このような視点からすれば、そもそも事故やミス、クレームを減らすことができることでしょう。
最後まで対話するためにも、これだけの安全体制を整えていたのですよ、という医療機関のスタンスは患者さんに伝わるのではないかと思います。
※医療安全=医療訴訟予防=医療機関のブランド化
※医療安全の道は一日にしてならず
結局、《医療安全》で最も大切なことは、法律的なものの考え方を医療関係者が理解し、また、法律家も医療機関の現場の感覚を理解することとなります。
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