意味のある同意書・意味のない同意書
やってはいけない謝罪
あなたは,同意書を取る意味を意識しながら,同意書を取っていますか?
万が一の場合、患者さんやご家族の方への対応で困っていませんか?
2016年1月24日 | 東京会場 |
2016年2月28日 | 名古屋会場 |
2016年4月24日 | 札幌会場 |
2016年5月22日 | 大阪会場 |
本日のタイムスケジュール
問題の所在
・・・同意書を取る時,その同意書の使われ方を意識していますか?
同意書の意味
・・・同意書は裁判になった時に使う「証拠」だという認識はありますか?
実際に裁判で同意書がどのように使われるか
・・・有効な同意があったことを証明できないと裁判で負けてしまうこともあります。
具体的にどのような同意書を取ればよいのか
・・・同意書には種々ありますが,その基本的な考え方について学びましょう。
ワークショップ
・・・皆さんも具体的事例に合わせて、ロールプレイをして、具体的に考えてみましょう。
問題の所在
皆さんは,同意書をどのような時に取りますか?
誰が取りますか?
いつ,どこで取りますか?
どのように取りますか?
なぜとりますか?
なぜ同意書を取る必要があるか,考えたことはありますか?
もしかしたら,,,
同意書をとるように先輩に教えてもらったから
同意書をとるのは当然だと思っていた
そうゆうものだと思っていたから
皆が取っているから
考えたこともない
これらに当てはまる人は少なくないのではないでしょうか?、どのような時に取りますか?、これは,病院・施設などで決められている場合が多いですね。特に自分で、この場合同意書をとるべきか否か、という点から悩むことは少ないのではないでしょうか。実際に、同意書があるか否かが争いになることは少なく、その同意書が意味があるか否かで争われることが多いと思います。
なので、同意書を採るべきか、というより、同意書を採るときに、どのようにとれば意味があるのか、という観点からの理解が必要になるのです。
誰が取りますか?
基本的には,その同意の対象となる医療行為を行う医療者が同意書を取るべきです。
具体的には,
→手術をするための同意書は,手術をする医師等
→身体抑制をするための同意書は,身体抑制をする医師・看護師等
→麻酔をする場合は,麻酔をする麻酔科医等
となります(例外あり)
いつ取りますか?
いつ,については,なるべくその医療行為が行われる直前が望ましいでしょう。
もっとも,あらかじめ想定される医療行為については,ある程度前もって取るのも大丈夫です。ただし,入院時に身体拘束などすべての医療行為についての同意書を取るのは意味がありません。この点についても,この後一緒に見ていきましょう。
どこで取りますか?
どこで,については,ケースバイケースだと思います。
ただし,プライバシーに配慮した形が望ましいでしょう。もっとも,緊急性がある場合はこの限りではありません。少なくとも、どこで同意書をとったか、ということで問題になったケースはあまりないと思います。
なぜ取りますか?
これについては,まったく考えたことがない、という人も少なくないと思います。最も基本的なものとしては,医療行為を同意なく行うと,「傷害罪」(刑法204条)に当たるということが挙げられます。
ただし,医療行為は有意義なことなので,実際には,正当行為(刑法35条)となります。この正当行為というために,「同意」が必要なのです。この辺りは、医療行為は刑罰に当たるという認識を持つ必要はありません。あくまで、刑法学者の理屈によると、だけの話で、余り実益ある議論ではありません。
なぜ同意書を取る必要があるか,考えたことはありますか?
これがまさに本日のメインテーマです。さあ,一緒に考えていきましょう。とはいえ,いきなり考えてみましょうといってもなかなか難しいので,少し問題点を整理してみましょう。
同意と同意書の違いって?
まず,同意書は「証拠」です。証拠というのは,ある「事実」を「証明」するための「道具」です。そして,同意書も「証拠」ですから,同意があったという「事実」を「証明」するための「道具」だということになります。これは,裁判で,患者さんがそんな医療行為を行うことについては,「同意」していない,と言ってきた場面で効力を発揮します。
では,同意書は万能なのでしょうか?繰り返しますが、証拠というのは,あくまで,証明の道具です。それぞれの証拠を見て,裁判官が,「たしかに,同意があった」と判断してくれなければ,その同意書は,意味がありません。また,裁判になった場合には,訴えてきた患者さん側の弁護士は,同意書には効力はない(つまり意味がない)と言ってくるでしょう。とすると,このような裁判を想定して意味のある同意書を取らなければならない,ということになります。つまり、使える「道具」にする必要があるということです。
小括
つまり,同意書は,裁判で使われるもの、という認識が大切。裁判で使われるということは,これを目にするのは裁判官である。裁判官が見る書面である以上,法的文書として意味がなければならない。法的な文書とは、例えるならば、遺言状のようなもの。法律できちんと要式や取り方が決まっている。現場において同意書を取る場合にも,裁判官が意味のある同意書だ,と判断するような内容にしなければ,意味がない。この後,一緒に見ていきましょう。
はじめに
法律の考え方はわかりにくい。ひとたび裁判となれば裁判のルールに従って行われる。しかし,法律家のほとんどは医療については素人。そのため,医療現場の方から見て違和感のある判決がなされることも少なくない。したがって,医療現場の方が自分の身を守るために,少なくとも法律の基本的な考え方を学ぶ必要がある。ここで、裁判官ってどんな人なの⁇、司法試験に合格する必要はあるの?
→もちろんあります。
いつ裁判官になるの?
→司法研修所で希望するとなれます。
成績が優秀でなければなれない?
→そんなことはありません。試験ではなく、人物を見て採用されます。
※裁判官は、弁護士や検察官と司法研修所を卒業するまでは、まったく一緒の過程。そのため、司法研修所の同期のつながりはかなり深い。
※そのため、表面上は相対立するけど結局は狭い世界。良く知り合いにもある。
※裁判官ってどんな生活しているのか、どんな人が多いのか、などちょっとお話しましょう。
同意の3つの意味
ここでは少し詳しく見ていきましょう。
- 医療行為を適法に行うための同意
- 患者さんの自己決定権の保障
cf.エホバの証人輸血拒否事件 - 説明義務を果たすための動機付け
- 「同意」と「同意書」
「同意」とは,患者さんが当該医療行為を行うことを承諾したという事実を意味する
「同意書」とは,あくまで同意書という書面に患者さんの署名・押印があるという事実を意味するにとどまり,実際に同意がなされたという事実を直接意味しない
※ちょっと難しいので、ここはゆっくり説明します。
説明義務について
前提として判断材料の提供が必要
→つまり、必要な情報を正確に、なるべく客観的に患者さんやご家族に説明する必要があります。
患者さんは無知であることが説明の前提(例外あり)
→医療関係者などがご家族にいる場合もありますが、基本的には、前提知識がない人を基準として説明する必要があります。
自由な意思に従って意思決定をしてもらうことの大切さ
→特定の手術をやりたい、経験を積みたいなどという思いから、患者さんをミスリードする医師がいます。このような考え方は危険です。
※群馬大学事件などもこのケース、その他類似ケース多数
具体的に説明義務が求められる場合
手術実施にあたって
→手術の危険性などを説明します。箇条書きのチェックシートを使うのは備忘のためにはよいですが、チェックシートを見せながら説明するのは、あまりお勧めできません。
診断結果,治療方針など
→急変時などや、ご家族になかなか連絡が付かない場合などもありますから、いつ、どのくらい、などというのは具体的に場合にならないと判断できません→顧問弁護士とその時その時相談する。
転医を勧める場合
→ご家族やご本人が希望する場合もあります。しかし、受け入れ先がなかなか見つからない、全身状態から動かすこと自体がリスクなどという場合もあります→顧問弁護士にその時その時相談する。
診療行為が終わった場合,等。
→不幸な結果の場合には、謝罪の問題も入ってきますが、そうでない場合でも、きちんとこれからのリスクや、どのようにフォローしていったらよいかなどを説明する必要があります。
説明義務を怠ったら,どうなるか?
説明義務を怠ったということは,同意の前提が欠落していたということが推認されます。
→つまり、意味のない同意書だった、と判断された場合のこと
とすると,同意なく医療行為が行われたとして,違法,と裁判官が判断する可能性があります。
→正当業務行為ではなくなってしまうからです。
このように「違法」と判断された場合には,不法行為(民法709条)若しくは,債務不履行(民法415条)が認められてしまい,医療機関は,損害賠償をしなければならなくなってしまいます。
→これは民事責任の話です。この他刑事責任を問われる場合もありえます。
ここで,「証拠」とは?
ここでは、「証拠」についてさらに理解を深めましょう。
皆さんは、証拠と聞くと,何をイメージするでしょうか。漠然としたイメージはみなさんも持っているはずです。具体的には・・・一緒に考えましょう。よくドラマでは出てきますよね。
それでは,法律家のいうところの「証拠」とはどのようなものなのでしょう。みなさんの認識との違いを意識しながら、聞いてください。
証拠とは1
まず、民事訴訟はどのようにしたら勝ち負けが決まるのでしょうか。
細かい難しい議論は抜きにして医療訴訟についてのみ考えてみましょう。
医療訴訟においては、患者さんの死亡など、生じた不幸な結果について先行する行為に「過失」があったか、また、その「過失」と不幸な結果との間に「因果関係」が認められるか、という点が問題になります。
そして、裁判官が「過失」や「因果関係」がある、と判断すると訴えた方の勝ち,訴えられた方の負け,となります。
ただ,「過失」などについては,通常の弁護士は患者さんと同じくらいの医療の知識しかないので、裁判官にうまく説明することが難しいです。
したがって,専門家の鑑定書を提出するのですが、往々にして、その問題についての鑑定書になっていないことが多いです。
※これは別の問題で、意味のない鑑定書の話になるので、今日はやめておきましょう。
図にすると・・・
証拠とは2
民事訴訟では,証明した事実が真実である必要はありません。
訴えた方(原告),訴えられた方(被告)の双方が争わない事実は,当然に裁判所の判断の前提となります。
例えば,お金を借りたことがない人が,金返せ,と訴えられたとして,裁判で,お金を借りた事実を争わないと被告が言ったら,実際には,お金を借りていなくとも,裁判官は,被告に原告に金を返しなさい,と判決を書くことになります。
証拠とは3
これとは反対に,たとえ,真実であったとしても,その「事実」を争うといった場合には,それが真実であることを,原告は証明しなければなりません。
しかし,裁判官は,当然ですが,その事件があった現場にはいません。
とすると,これを証明するために,証拠が必要となる,ということになります。
証拠とは4
証拠には,大きく2種類あります。
1つは,いわゆる人証と言われるもので,ドラマなどでも良くありますが,弁護士に質問されて答える人です。
もう1つは,物証と言われるもので,刑事事件などの凶器や,民事事件の契約書などが含まれます。同意書もここに含まれます。
証拠とは5
では,どちらの方が,より裁判官を説得・納得させやすいでしょうか?
人証は,五官の作用で見聞きして,記憶して,それを頭の中で整理して(整理できない人もあります),聞かれた,口に出して話をします。
当然,その過程で勘違いなどもありますし,故意に嘘をつくのは,ドラマでもよくある話です。
裁判官も,証人が嘘をつく可能性を考慮しながら、話を聞きます。
証拠とは6
では,物証であれば,何でも裁判官は信用するのでしょうか?
証拠とはあくまで事実を証明するための道具であり,裁判官は,証拠があるだけでは完全には信用しません。その文章の態様やその文章を作成するに至った経緯をも重視しますし,弁護士もそこを主張します。
なぜなら,偽造などもありうるからです。
証拠とは7
物証についての裁判所の考え方 EX) 遺言書
- 遺言書が遺言者によって作成されたかどうか(作成者)
- その遺言書より新しい遺言書がないか(作成時期)
- 遺言書の内容はどのようなものか(内容)
証拠としての同意書について
とすると,証拠としての同意書は,
- 同意書を患者さん本人が作成したか(作成者)
- その同意書はいつ作られたものか(作成時期)
- 同意書の内容はどのようなものか(内容)
特に,同意書に説明したと書いてある項目についてどのように説明したかについて,カルテや看護記録といった別の証拠が必要になることがある。
この後具体的な裁判例をもとにその具体的状況を想定しながら,一緒に考えていきましょう。
①手術実施にあたっての説明義務
最高裁平成13年11月27日判決
「医師は,患者の疾患の治療のために手術を実施するに当たっては,診療契約に基づき,特別の事情のない限り ,患者に対し,当該疾患の診断(病名と症状),実施予定の手術の内容,手術に付随する危険性,他に選択可能な治療方法があれば,その内容と利害得失,予後などについて説明すべき義務がある」
②病状の説明義務
最高裁平成14年9月24日判決
「医師は,診療契約上の義務として,患者に対し診断結果,治療方針等の説明義務を負担する。」
➂転医義務について
横浜地裁平成17年9月14日判決
当該医療機関では適切な診療をすることができない場合には,他の適切な診療ができる医療機関への転医を勧告する義務がある。
④医療行為が終わった際の説明義務
東京高裁平成16年9月30日判決
あらかじめの説明だけでなく,医療行為が終わった際にも,その結果について適時適切な説明をする義務が医療機関にはある。
同意書は誰からとるべきか?1
高次脳機能障害や精神性疾患,認知症等の患者さんについては,同意書の内容について正確に理解できる能力がない場合がある。
このとき,多くの医療機関や施設では,ご家族の同意を得るようにしているでしょう。
場合によっては,成年後見人の同意を求めることもあるかもしれません。
しかし,法的には,このときに誰からとれば有効な同意書になるかは明らかではありません。
同意書は誰からとるべきか?2
基本的な考え方
医療行為に同意するか否かは,本人の意思によらなければならない
→本人以外の誰かから,本人ならこうするだろうという意思を推測しなければならない。
→本人の意思がわからないのであれば,それを一番知っていそうな人はだれかを考える。
親? 子ども? 後見人? 家族で意見が分かれているときは?
CF) 精神保健福祉法
謝罪の考え方1
①責任自認型
「このたびは,我々のミスでお父様を死なせてしまい申し訳ございませんでした。」
「力が及ばず,このような結果となってしまいました。」
②共感表明型
「お父様の死について,お悔やみ申し上げます。」
「このような結果により,大変悲しい思いをされていると思います。調査経過のご報告など我々にできる限りのことはさせていただきます。」
謝罪の考え方2
責任自認型の謝罪をしてしまった場合
その謝罪文言を録音されてしまった場合には,のちの裁判で不利な証拠となりうる。特に,過失や因果関係に争いがある場合には,謝罪の事実により裁判官に悪い印象を持たれることになる。
一方で,謝罪の事実が証拠として出され,その証拠を直接の根拠として過失などが認定された裁判例はほとんどない。
責任自認型謝罪はしないのがマスト
ただし,遺族感情に対するケアも必要
謝罪の考え方3
場面に応じた遺族への接し方
① 事故発生直後
② 院内事故調査開始~調査結果判明時
③ 医療事故調査制度に移行した場合
謝罪の考え方
有害事象発生後には,直ちに顧問弁護士に連絡することが望ましい。どのような対応をすべきかは,個別具体的な事情に応じて,弁護士と協議の上で決めるべき。
初期対応がとにかく大事。
遺族が置いてけぼりにならないよう,経過報告をこまめに。
「お父様の死因について鋭意調査中でございます。今の時点で,確定的なことを申し上げられないことについて,大変申し訳ございません。ご質問やご意見については,○○宛てにお気軽にご相談ください。」
では,現場ではどうしたらよいか。
これについては,答えは一つではありません。
結論から言えば,同意書のとる意味を医療者それぞれが意識して,具体的に裁判を想定しながら同意書を取るようにすることです。具体的には,顧問弁護士といつでも相談できる体制を作り,また,勉強会などを定期的に行うことが大事です。
やってはいけないこと
弁護士はとっつきにくいとして,相談しないこと。癌になってから来てください,という医師はいません。これと同じで,訴訟若しくはトラブルになってから対応する弁護士は,意味がありません。健康診断と同じように,法律的なチェックを定期的に受けてください。
やって欲しいこと
証拠というのは,何も同意書だけではありません。弁護士と一緒に,医療安全について現場スタッフが常に勉強していること,それ自体も,裁判において有利な証拠になります。間違いなく言えることは,証拠は事件が起きてから作っても間に合いません。また,事件が起きてから作ることで,整合性が取れず,裁判所の心証が悪くなることもあります。
すなわち,何もないときに,真摯に医療安全に向き合っていることが何より重要なのです。「思考停止」しないこととかく,法律のことは難しくて,「こうしておけばいいんですよね」ということをよく耳にします。
しかし,日々新しい裁判例が出ています。ということは,今日は良くても明日はダメということも少なくありません。ですから,弁護士と日常的に接しての距離を常に縮めておく必要があります。
これこそ,私が医者として医療現場において,究極的に必要なこととして求めていたことです。
たとえば,,,
複数の医療機関では,身体拘束の同意書の添削を依頼してきました。正直,本日のテーマに合わせて言えば,まさに「意味のない同意書」になっていました。しかし,これまで述べたように,同意書に関する事前研修を実践した上で,同意書を取ったらすぐに弁護士にFAXして,絶えずチェックを受けることにより,これは「意味のある同意書」とすることが可能です。
契約書チェックは世間の常識
同意書のチェックは,一般企業で言えば,契約書のチェックであり,リスク分析,漏れがないかの確認など,顧問弁護士に何重にもチェックするのが通常です。では,なぜ医療機関では,そのような弁護士の活用が行われていないのでしょうか。それは,医療専門弁護士の圧倒的不足が主因です。
医療専門弁護士の探し方
少なくとも,ポリクリ学生以上研修医未満くらいのレベルに落として相談をして,それにすらついていけない場合には,その弁護士は,医療機関の顧問弁護士をする能力がないと言ってよいと思います。
現在,弁護士数がやや増加傾向にあり,伊藤弁護士のような医師免許は持たないが医療専門の弁護士は増えつつあります。是非,「意味のある弁護士」を顧問弁護士にしてください。
結語
「意味のある同意書」について,ご理解いただけたでしょうか。「意味のある弁護士」とともに,「思考停止」することなく,常に,医療安全に取り組んでください。我々,医療専門弁護士は,全国各地で講演していますが,医療安全に意識の高い医療機関ほど,事故は起きていません。
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